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May 19, 2008

黒澤明と異国の崇拝者

黒澤作品とそのリメイク版(国産を除く)をきちんと放送して行けば、それはそれで若干の意味はあるし、受信料を取る以上、それくらいのことはすべきだとも思う。「荒野の七人」、「荒野の用心棒」、「スター・ウォーズ」、「ラストマン・スタンディング」(「用心棒」の再リメイク)と、ちょっと考えただけで、そんな題名が思いつく。監督でいえば、プロットを拝借して大もうけしたのがジョージ・ルーカス、黒澤明に心酔したあまり、人生を狂わせた(?)のがジョン・ミリアスだと思う。ジョン・ミリアスの人生には、なにか悲劇性がつきまとう。 人名辞典には、ジョン・ミリアスは1944年生まれ、とある。セントルイスの生まれで、一家はカリフォルニアに移住、ジョンは1958年、マリブ海岸でサーフィンに狂う。1962年の終り、波を求めてハワイへ行った時、映画館で黒澤明週間に出会う。日本映画の専門館があったらしい。 やがて南カリフォルニアの映画学科に入るが、当時のヨーロッパの若い監督はきらいで、ジョン・フォードやハワード・ホークスにつらなる大監督になろうと考えた。つまり、「男の映画」だ。黒澤映画への憧れは、これと直結する。 何本かのシナリオを書いてから、ミリアスは監督第一作の「デリンジャー」を作る。1973年作で、主役のデリンジャーがウォーレン・ウォーツ、彼を追う捜査官がベン・ジョンソンという玄人好みのギャング映画である。この映画の試写を見た時、ぼくはなぜか、ジョン・ミリアスが黒澤を崇拝していることを知っていた。デリンジャーが女と一緒に映画を観ている、という密告が入る。ベン・ジョンソンは趣味の悪いレストランで、密告者である女からその話を聞くのだが、ケバケバしいレストランで、二人はアイスキャンディーをなめている。なんとも不思議なこのシーンは、ぼくの直感では、黒澤の「野良犬」(1949年)の中の有名なシーンの「引用」である。淀橋署内でおこった発砲事件なので、淀橋署の名デカ長(志村喬)が警視庁にきて、拳銃を持っている男の名前を、千石規子から引き出そうとする。戦後すぐの警視庁は冷房がなく、とても暑い。志村は千石とともにアイスキャンディーをなめながら雑談をし、おどしたりすかしたりして、男の名前を吐かせる。「野良犬」を観た人なら忘れられないこのシーンを「引用」するジョン・ミリアスに僕は好意を持った。 彼はつづけて、明らかに黒澤映画を想わせる、「風とライオン」(1975年)や、東映任侠映画のような終り方をする「ビック・ウエンズディー」(1978年)を作った。その後のことは、あまり知らない。「地獄の黙示録」をはじめ、脚本家としてはトラブルの多い人だから、今のハリウッドでは生きづらいだろう。ゆうべ、なんという理由もなく、書庫から、「黒澤明語る」(聞き手=原田真人・福武書店)という古本を出してきて、眺めていたら、「ミリアスはだめだね。」という黒澤の発言に驚いた。いかに1991年の発言だとしても。つづけ、てこうある。「・・・・ミリアスだって今ここだから言うけれどもね。人はいいよ。だけれどもなんかこの前会ったときなんか、どうしたのか、おれは山本五十六の生まれ変わりだなんて言ったり、本(脚本?)を見たら目茶苦茶なんだよね。」 セントルイスの生まれで、山本五十六の生まれ変わりというのは、たしかに変だが、教訓はただ一つ。――――本当に尊敬する人には近づかぬこと。
小林信彦「本音を申せば」 週間文春より引用

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